こんにちは!
『ペンギンの憂鬱』。
作者がウクライナの作家ということで今話題のこの作品を手に取る機会がありました。
難しい話は抜きにしてペンギンのミーシャがただただ可愛い。
もうそれだけで一度読んでほしい作品なのですが、この記事ではわたしの感想も含めもう少し詳しく作品の紹介をしていきます。
『ペンギンの憂鬱』作者 アンドレイ・クルコフについて
1961年4月23日レニングラード(現・サンクトペテルブルグ)で生まれ、3歳の時に家族でウクライナ・キエフに移り住む。
出版社勤務、兵役を経て本を執筆していたが、長い間日の目を見なかったようです。
自身を「ロシア語で書くウクライナの作家」と見なし執筆はロシア語で行っています。
さまざまな言語に関心のある作家で、過去には日本語や日本文化を学んだ経験もあるとのこと。
そんな彼の転機となったのが、1996年に出版の『ペンギンの憂鬱』。
欧米で翻訳され一躍有名となりました。
本国ウクライナよりもヨーロッパでの知名度が高いのではと言われていましたが、今ではウクライナを代表する作家となっています。
『ペンギンの憂鬱』あらすじ
舞台は1990年代のウクライナの首都キエフ。
ソビエト連邦が崩壊しマフィアが暗躍している不安定な時代。
主人公のヴィクトルは売れない短編小説家。そして一緒暮らしているのは憂鬱症のペンギン ミーシャ。
まだ生きている人々の「追悼記事」をあらかじめ書いておく仕事をはじめたヴィクトルの周りで起こる不穏な出来事の数々。
ささやかな安定した生活の雲行きが怪しくなっていき、最後にヴィクトルのとった行動は…。
『ペンギンの憂鬱』感想
憂鬱症のペンギン と 売れない短編小説家。
わたしはこのキャッチフレーズを聞いただけでこの物語に興味がわき読むことにしました。
社会的な背景や政治情勢を考えるとやりきれない気持ちになってしまうけど、ひとつの作品としてこの物語に入り込むことができました。
売れない小説家が憂鬱症のペンギンと暮らしているというぶっ飛んだ設定をものともせず淡々と進む物語。
ロシア文学(絵本も含め)に感じる特有の「薄暗さ」を常にまき散らしながらもただただ可愛いペンギンのミーシャに癒される。
そしてこの作品にはたくさんの「死」が出てきます。
感情の起伏が少ないように感じるヴィクトルも「死の蓄積」にはこたえていたのでしょう。
終盤の追い詰められたヴィクトルの狂気的な行動には違和感を感じながらもドキドキさせられました。
全体を通して興奮してどんどん読み進めていくという作品ではないけど、わたしが想像しえない世界で、想像を超えた出来事が淡々と起こっていく。
その不思議な感覚を楽しみながら読む。そんな作品でした。
『ペンギンの憂鬱』ペンギンのミーシャ
作中でただただ可愛い憂鬱症のペンギン ミーシャ。
ただそこにいるだけなのに、その存在感の大きさに驚かされます。
というより、ミーシャがいなければこの作品は成立すらしない。
「一言も話さないのに」です。
社会の風刺作品ととらえられがちなこの作品を、単純に物語として楽しませてくれるのはミーシャがいるからだと断言できます。
作中でミーシャは「皇帝ペンギン」と述べられています。
キングペンギンと間違いやすいけれど、皇帝ペンギンは「エンペラーペンギン」で以下の特徴を持っています。
- ペンギンの中で一番大きい
- 体を左右にゆすって歩く
- 潜水が得意
- 巣をつくらない
- 生息地は南極大陸周辺
- 体長100~130㎝
- 体重30~38㎏
無菌状態の南極にいたペンギンが動物園で暮らすことによって呼吸器の病気になったり足にタコができたり(野生に比べて歩くことが多いから)することも珍しくないようです。
もしかしたらミーシャの足にもタコがあるかもしれないし、動物園にいたミーシャが憂鬱症を患ってしまったのもあり得なくはないですよね。
そんなミーシャは白黒のタキシードを着ているようだと言われ、葬儀にも参列するようになります。
本来は敵から身を守るたの模様を利用されるミーシャの憂鬱は、より深くなってしまったのでしょう。
この本を読んでいてあまり感情的になることはなかったけど、このシーンは胸が痛かった。終わりの始まり のようなそんな気がしました。
そして原題は『局外者の死』→『氷上のピクニック』へと変更されているそうです。
個人的には『氷上のピクニック』すごく好きです。
『ペンギンの憂鬱』ほどのインパクトはないけど、ミーシャの幸せな時間を思い出させてくれるいいタイトルだなと思っています。
「憂鬱症のペンギン」ってどんなペンギン?そんなに可愛いの?と思ったあなた。
読んでみてください。ミーシャがどんなに可愛いか分かるはずです。
Embed from Getty Images『ペンギンの憂鬱』続編
『ペンギンの憂鬱』を読み終わったほとんど全ての人は、続きが気になる!という気持ちになるのではないでしょうか。
わたしも同じ気持ちになりました。だって気になる終わり方なんです。
そんな世間の声に応えて続編となる『カタツムリの法則』が出版されています。
残念ながら英訳はされているものの、『ペンギンの憂鬱』ほどヒットはせず日本語訳は出版されていません。
英訳もずいぶんボリュームダウンして翻訳されているようなので原作の内容を完全に把握するのは難しそうです。
今後日本語訳が出版されるかは分かりませんが、出版された際には必ず読みたいと思っています。
翻訳はペンギンの憂鬱と同じ沼野恭子さんにして頂きたいです。
「薄暗さ」を雰囲気たっぷりに表現していた素敵な文章でした。
日本語訳の出版をお願いします!
おわりに
憂鬱症のペンギンと売れない短編小説家。
その組み合わせだけでこんなに興味を惹かれ、読書中の不思議な感覚を味わうことができました。
淡々と進む割にじとっとした湿気も感じるこの作品とミーシャの可愛さに触れてみたいと思ったらぜひ手に取って読んでくださいね!
最後まで読んでいただきありがとうございました。